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更新日:2024年3月11日
アントゥキ(ある日)、チャンガ(父親が)クラシャチノティ(高倉にあがって)、クラシャラ(高倉から)シェードゥックリックゎ(酒がめを)ウルシュンカナ(おろそうとして)、ワランキャバ(子どもを)クラシャバリチ(高倉の下に)アブィティ(よんで)イイツキタン(いいつけました)。
「チャンガ(お父さんが)シェードゥックリバ(酒がめを)ウルシュンカナ(おろすから)、ィヤーヤ(おまえは)トゥックリブッカ(マリ(底)を)ウトゥサンカベ(落とさないように)ムッチュリヨ(持てよ)。ウブサンカラ(重いから)、イイアンベックゎ(しっかり)ミンジュリヨ
(持つんだよ)。」
ガシシガラ(そして)、シェードゥックリバ(酒がめを)ジョグチガティ(出口まで)ムッチシナ(運んできて)、「イッチャンナ(いいか)、トゥ(さあ)、ウルシュンカナ(おろすから)イイアンベックゎ(しっかり)ブッカ(マリ(底)を)ミンジュリヨ(つかまえろよ)、ウトゥサンガネシ(落とさないように)」チ(と)、クワンクワンイシャンワケ(念をおしました)。
クランシャバリナンティヤ(下のほうでは)ワランキャヌ(子どもが)、「イッチャ(よく)ミンジュンカナ(つかまえているから)フェーク(早く)ウルシンショレ(おろして)」チ(と)イシャットゥ(答えましたので)、チャンヤ(父親は)オセシ(安心して)シェードゥックリックゎ(酒がめ)バ(を)ウルショタンチョッカナ(おろしました)。
シャンバ(ところが)ドスン(ドスン)チ(と)フーカン(大きな)ウトゥヌシ(音がして)、シェードゥックリヤ(酒がめは)ワレタンチョッカナ(こわれてしまいました)。
イッチャ(しっかり)ミンジュリチ(持つと)イシャンムン(いったのに)キャッシャンサバクリガロ(どうしたことだろう)チ(と)、チャンガ(父親が)シャーミシャットゥ(下をのぞくと)、クワンキャヤ(子どもは)ドゥヌ(自分の)キンバ(着物を)カリャゲティ(まくって)マリブッカ(マリ(尻)を)バドゥ(しっかりと)ミンギィスキィティ(つかんで)ウタンチ(いたのでした)。
むかし、といっても今から七十年ほど前のことです。
集落の中でも、大変おもしろくてゆかいな親子が仲よく暮らしていました。
父の名まえは真次郎、むすこの名まえを義蔵といいました。
あるこがらしのふく寒い日の夕方、父の真次郎が高倉の前でうでぐみをして、何か考えこんでいる様子です。
その目は高倉に向けたまま、身動きもしません。
そこへむすこの義蔵が、てぬぐいでほおかむりをして、一衣着をなわでしばり、これまたうでぐみをしながら高倉のそばへやってきました。
それを見た父の真次郎が「義、義。こんなヒーグルさん(寒い)時には、シェー(酒)でも飲んであったまりたいもんだね。」というと、「チャン(父)、チャン。ワン(自分)や、チャンがかくした酒がめのことを知っているんだけど、ワンにも少しわけてくださいよ。」
「何―、そうか。おまえは酒がめのかくし場所を知っとったんか。じゃあ、しょうがない。おまえが梅バッケ(叔母)からもらったスルメでいっぱいやろう。」といいながら、父の真次郎はハシゴを出して高倉にかけ、するすると登りはじめました。
「おい、義。チャンが酒がめを降ろすから、おまえは落とさないようにしっかりマリ(底)をつかんでおけよ。」
「チャン、わかった。もう降ろしていいよ。」
「いいか。重いから、しっかりマリをつかんでおるんだぞ。」
と、くり返し言うので、高倉の下の方では義蔵が「よくつかまえたから、早く降ろしてくれよ。」とさいそくです。
ところが、父の真次郎が手をはなしたとたん、酒がめは「ガッチャン」と大きな音をたててこわれてしまいました。
さあ、たいへん。父の真次郎のおこること、おこること。
せっかくの酒がめがこわれ、入っていた酒が地面にすいこまれていくのをくやしそうに見ていましたが、「やい、義。おまえにしっかりマリ(底)を持てといっているのに、なにをしていたのか。」と、義蔵を見ると、むすこの方は一衣着をまくりあげ、自分のマリ(尻)をしっかりと両手で持ちながら「チャン、チャン。マリ(尻)をしっかり持てといったから、ほら、このとおり両手で強く持っていたんだよ。」
むすこの義蔵も、酒のしみこんだ地面を見ながら残念そうに言うのでした。
父の真次郎は、ただ口をあんぐりとあけ、夕方の風にからだをふるわせるばかりでした。
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